千葉の片田舎へ向かう列車の中、窓からは涼しい風が流れては
雄一の頬を撫でた。

「駅弁ってどうしてうまいんだろうなぁ」忍が駅で買った弁当をほおばりなが膨らんだ頬で話しかける。

「って…、だからなんでお前が付いてくるんだよ」
少し怒り口調で雄一は言葉を吐いた。

「なんだよ、墓地は駅から降りてしばらく山道なんだ。運転手が必要だろ?」
親切で来てやった、というような口調で忍が言い返してきた。

雄一はそれ以上は反論せず、再び口をつぐんで外を眺めた。

鈍行列車ではないが、流れていく風景はゆるやかだった。

緑の草木がサワサワと揺らめく。

時々可愛い小さな花の群れが、くすくすと笑うように揺れては
すぐに視界から消えていった。
そんな風景に見慣れはじめた時、雄一は突然ハッとした。

「!?」

一瞬だった。
もしかしたら見間違いなのかもしれない。
いや、きっとそうだ。

先日忍とその話をしていた、それが印象に残っていて、きっと野の花がそれに見えたのだ。

だって、もう見えるはずはないのだ。

だけど…。

「おおい、なんだよ、そんな顔して、まだ怒ってんのか」
駅弁を食べ終えた忍が、雄一の顔を見て少し驚いていた。

雄一はハッとした顔で忍を見つめた。
言おうか、言いまいか考えたのだ。

忍はまた文句でも言われるのだろうという諦め顔で雄一の開口を見守った。

だが、雄一からは言葉が出ない。

「なんだよ、、、どうかしたのか?」
雄一の態度が先ほどと少し様子が違うことに気づいた忍は、
心配した口調に変わっていた。

「いや、たいした事じゃない。少し疲れたのかもな。ちょっと休むよ」
雄一は気持ちを落ち着けようと目を閉じた。
疲労のせいか、そのまま静かに眠りに落ちた。