あの夕暮れの日、もっとたくさんの事を話しておけば…
いつも不器用で言えなかった感謝の気持ちを、もっと素直に伝えていれば…
そう何度も何度も悔やみ、雄一は独り泣いた。


「僕も14日は千葉へ参ります。ご一緒するわけにはいきませんので、僕は夕方参ります」奥村の墓は、奥村の田舎にひっそりとある。雄一が回忌ごとにそこへ行くつもりだ。
「あら、遠いのに、いいわよ、気にしないで」葉子が申し訳ないという顔でそう言った。
「いえ、これは僕の気持ちなので」雄一は少し微笑んでそういうと、
葉子から墓地の場所を教えてもらい、忍と画廊を後にした。

「では葉子さん、またお邪魔しますね」忍がのんきな挨拶で葉子に照れながら笑った。

葉子は美しい姿勢のまま、2人を扉まで見送った。