「葉子さん、お待たせしました。お約束の絵5枚です」
雄一が普段の話し方より確かに丁寧で優しい口調で、奥村葉子に絵を渡した。
「桐原君、どうもありがとう。長谷川さん、いつもお手伝いすみませんね、助かっております」
葉子が優しく微笑みながら雄一と忍に話す。
「いやぁ、葉子さんのお役に立てるならいつでも言ってください。」忍が明らかに鼻の下を伸ばしてそう言った。
くすくす、と葉子が朗らかに笑う。
雄一はその微笑みを穏やかな気持ちで眺めた。
「そういえば14日、ご主人の一周忌でしたよね」
雄一が少し弱い声で葉子に話しかけた。
「ええ、覚えてくれていたのね」葉子が悲しみを隠す様に口角を上げて笑っていた。
「もちろんです。僕の恩人ですから、弘さんは…」
雄一はそうつぶやくように言うと、家のアトリエの、あの岩で奥村と一緒に
過ごした、去年の夏の始めを思い出した。
2人片手にビールを持ち、まだ涼しい夕暮れ、ひぐらしの鳴き声、庭から見える森のざわめき…目を閉じると、今でもすぐにそこにいるように戻れた。
あの日は、いつか若い頃に奥村が描いたと言う、葉子に向けた赤紫色の夕焼けの絵の話を聞いた。
美しい話だったな。
プロポーズだったのだろう。奥村はただ、葉子にせがまれてな、と言っていたけれど、少し照れたあの表情。
その夕焼けの絵が、裕福ではない若かりし奥村からの、葉子へのプロポーズだったのだろう。
絵が好きだった若い2人は、そうしてずっと絵を愛し続けてきたのだ。
お互いを愛し続けるのと同じように。。
「今度君にも見せてあげよう」そう奥村は言った。
その、「今度」がもうないまま、奥村は他界した。
その日から、わずか4日後のことだった。
雄一が普段の話し方より確かに丁寧で優しい口調で、奥村葉子に絵を渡した。
「桐原君、どうもありがとう。長谷川さん、いつもお手伝いすみませんね、助かっております」
葉子が優しく微笑みながら雄一と忍に話す。
「いやぁ、葉子さんのお役に立てるならいつでも言ってください。」忍が明らかに鼻の下を伸ばしてそう言った。
くすくす、と葉子が朗らかに笑う。
雄一はその微笑みを穏やかな気持ちで眺めた。
「そういえば14日、ご主人の一周忌でしたよね」
雄一が少し弱い声で葉子に話しかけた。
「ええ、覚えてくれていたのね」葉子が悲しみを隠す様に口角を上げて笑っていた。
「もちろんです。僕の恩人ですから、弘さんは…」
雄一はそうつぶやくように言うと、家のアトリエの、あの岩で奥村と一緒に
過ごした、去年の夏の始めを思い出した。
2人片手にビールを持ち、まだ涼しい夕暮れ、ひぐらしの鳴き声、庭から見える森のざわめき…目を閉じると、今でもすぐにそこにいるように戻れた。
あの日は、いつか若い頃に奥村が描いたと言う、葉子に向けた赤紫色の夕焼けの絵の話を聞いた。
美しい話だったな。
プロポーズだったのだろう。奥村はただ、葉子にせがまれてな、と言っていたけれど、少し照れたあの表情。
その夕焼けの絵が、裕福ではない若かりし奥村からの、葉子へのプロポーズだったのだろう。
絵が好きだった若い2人は、そうしてずっと絵を愛し続けてきたのだ。
お互いを愛し続けるのと同じように。。
「今度君にも見せてあげよう」そう奥村は言った。
その、「今度」がもうないまま、奥村は他界した。
その日から、わずか4日後のことだった。


