「先天的なものなの?」
怖くて表情が見えないけど、
声はとても柔らかだった。

「一応、後天性です。でも、
物心ついたときにはすでに
この状態でした。ただ…」

「ただ?」

「覚えている景色があるんです。
まだほんの小さなころに、多分
遊園地のようなところで、
見た景色なんですが、桜の花と
色とりどりの風船。後になって、
桜の花の色が薄桃という色で、
風船が赤と黄色と緑と橙と
いう色だと知りました。それが
あたしにとって最初で最後の
色の記憶です」

「そうなんだ」

「はい。だから、私はネオさん
の写真を見ても、ちゃんと色を
認識できないからあまり意味が
ないのかもしれません。ごめんなさい」

「謝ることないよ。ていうか、
安心して。俺の写真は白黒だから」

「そうなんですか?」

少し、驚いた。
彼の写真が違和感なく美しく
見えたのは、そのせいかもしれない。

「でも、何故?」
桜だって、きっとカラーの方が
美しいのではないか。なぜあえて
白黒で撮るのだろう?

「何故だろうね、多分どこかで、
逃げてるんだ。俺の力じゃまだ、
鮮やかな被写体の美しさを
ちゃんと引き出せないんだ、多分。」

「でも、力はあるんじゃないですか?
最優秀賞だってとってるし…」

「名前だけだよ、あんなの」

「写真部、なんですか?」

「うん。部員一人だけど」

「そうなんですか?」

「そう。あ、そうだ」

「え?」

「入らない?写真部」



にこにこしながら彼は
あたしを見ていた。