白いテーブルクロスをかけられた
上品なつくりのテーブルに腰掛けて
あたしは人を待っていた。

ウエイターが恭しく頭を下げて
注文していたアールグレイを置いていった。

静かにクラッシックがかかる店内の
装飾品は一目みて高級とわかる物で
統一されている。

所在無く口に運んだ紅茶はとても
香り高かった。

ため息をつき、外を眺める。

こんな格式高い場所、落ち着かない。

紅茶がなくなったのと、
待ち合わせていた人が到着したのは
ほぼ同時刻だった。

「ごめんね、待たせた?」

背後からの声に、振り返る。

「大丈夫だよ、母さん」

母さんは、あたしの向かい側に
ゆっくりと腰を下ろした。

黒のタイトなスーツ。CKのものだ。
黒い長い髪は結わえられている。
同年代の母親と比べればずっと若く、
自分の母にも関わらず美しいと思う。
でも、その表情には確かに長年の
疲労が表れていた。

ウエイターにコースをふたつと
白ワインを頼みながら、鞄から煙草
の箱を取り出しかけ、はっとなって
戻そうとした。

「吸っても平気。気にしないで」

母さんはすこし驚いた顔をしたが、
ふっと笑って細い煙草に火をつけた。

「少し見ないうちに、変わったのね」

母さんの目尻に皺が寄り、笑顔になる。
医者であり、シングルマザーである
母さんはいつも気を張り詰めた顔を
しているから、あたしは時折見せる
その笑顔が好きだった。

「変わった?」

「ええ。前は煙草嫌いだったでしょ?
 悪い友達とでも付き合ってるの?」

悪意なくくすくすと笑う母さんは、
面白がっているようにも見えた。