彼女の目つきは別人だった。
「前っ。」
糸が倉庫の門をこじ開けた。
「もっと前っ。」
残りの糸は、門が開いた隙間から、その先にある地面を掴む。そして、掴んだ糸が縮み始める。すると、馬車は勢い良く走り始めた。
「前っ、前っ、前っ。」
掴んでは縮み、掴んでは縮み、馬車はすごいスピードで街を駆け抜けていく。
「す、すごい。」
思わず声が漏れた。
「う、うるさいっ。」
真剣な目つきで怒られ、リーグは体を小さくした。
「前っ、前っ、右っ。」
糸は交差点の右側にあったガス灯を掴む。そこを支点にして、大きく方向を変えた。
<うわあああああ。>
すごいと言うより、その動きは恐怖だった。でも、リーグは口を押さえ、ひたすら声を出すのを堪えていた。
「左っ、前っ、右っ。」
このまま無事でいられる自信が、リーグにはなくなっていた。