雨の中、エリシアは山の中にいた。
「確かこんな感じだったよね?」
何かを確認している様子だ。傘もささず、彼女はずぶ濡れになっている。それでも、それを気にする様子もなく、ひたすら何かに打ち込んでいる。
「lot。」
エリシアが言術を唱えた。
何も起きる気配はない。それは当然の事だ。言術は修練だけで身につくものではない。遺伝子が大切なのだ。始祖から脈々と受け継がれる言術使いの遺伝子。それがない者は、どんな事があろうと使えない。
そう決まっていた。
しかし、エリシアがそれを知るはずもない。彼女は諦めなかった。
「lot。」
「lot。」
「lot。」
声が枯れそうになるまで、何度も、何度も唱える。
<なんで、なんで出来ないの?>
顔を流れる雨粒の中に、しょっぱいものが混じる。それは雨に溶け、エリシアの口の中に入った。
わずかな塩辛さが、妙にムカついた。
「なめんじゃないわよ。今度こそ、今度こそ出来なさいよ。いいわね?」
そう言ってから大きく息を吸った。
「lot。」
今までは唱えると言う言葉がふさわしかった。でも、今度は違った。怒鳴ると言うのが正しかった。山にエリシアの声がこだまする。