「lot。」僕は言った。
“唱える”と言うより、“言った”と言った方がピンと来る。ただ、それは言術としては失格だ。気持ちが、言葉にノっていないと言う事になるからだ。
「だめだ、だめだ。イバーエ、何回、同じ事を言わせるんだ?」
「そんな事言ったってさ、じいちゃん・・・“唱える”と“言う”って何が違うのさ?同じように、声に出しているだけだろ。」
「まだ、そんな事言っているのか?いいか、“唱える”って言うのは、気持ちを表すって事なんだ。イバーエ、今の言術にどんな気持ちを込めた?」
何も込めていない。正直、言術の練習なんて、面倒くさくて早く終わればいい、そう思っていた。だから、僕はじいちゃんの問いに答えられない。
「ほらな。何も気持ちを込めてないじゃないか。言術って言うのは、ただ、言葉を発すればいいってもんじゃない。言葉はきっかけに過ぎないんだ。そのきっかけに、気持ちを込めて吐き出す、これが大事なんだよ。」
「そんな事言ったってさ、気持ちを込めるものなんて・・・。」
僕がそう言い掛けた時だ。じいちゃんが、思いもよらないものを取り出した。
「これ、なんだ?」
信じられなかった。じいちゃんが手にしているのは、どうやっても手に入れられなかったパウパウ堂の限定品だ。
「ど、どうしたんだよ、それ?どんなに手を尽くしても、買えなかったのに・・・。じいちゃんが持ってるなんて・・・。」
「なんで持ってるかは秘密だ。ただ、イバーエ。お前、これが欲しいんだろ?」
喉から手が出るほど欲しい。それは表情にも、思いっきり出ていた。じいちゃんはほくそ笑んで、僕を見ている。
「欲しいよ。なぁ、じいちゃん、それ、くれよ。なぁ?」
「あぁ、そのつもりだ。ただな、タダではやらん。これを言術で奪ってみろ。奪えたらイバーエ、お前のものだ。」
「言術で?どうやって?」
「言っただろ。気持ちをノせてみろ。そうすれば、出来るはずだ。」
僕は何が何でも、じいちゃんの手の中にある、あれが欲しい。手に入れるには、じいちゃんに従うしかない。