風はつむじとなり、男の頬をかすめた。女の方はハッキリ見えないけど、たぶん、そんなところだろう。
頬に垂れる血を男は手の平で拭った。
「なんだ、これ?」
手の平をマジマジと見つめる。真っ赤に染まった手。それに男は慌てた。
「うわああああ。ああ、ああ、ねね様・・・血だ、血だよ。痛い、痛いよ。」
大声で泣き出した。
「あらら・・・。れれを傷つけるなんて。あの子、ただ殺されるだけじゃすまないね。」
泣いているれれを、ねねは冷めた目で見ている。れれはああなったら、どうする事も出来ない。それをよく知っているねねは、そんな目で見ているしかなかった。
「痛い、痛い、痛い・・・。」
その姿はおもちゃを買ってもらえずに駄々をこねる子供のようだ。
「痛い、痛い、痛い・・・痛いよおおおおお。」
しかし、男は子供ではない。あんなに大きな火の玉が創り出せる魔法使いなのだ。男の持っている強大な魔力が、痛みによって暴走し始めた。
男が「痛い。」と言う度に、火の玉が生まれ飛んでいく。その大きさは声に比例するようだ。大小の火の玉が、四方八方に飛んでいく。

「うわっ。」
飛んできた火の玉を、運動神経がいいリーグはかわし続けている。ただ、かわすにも限界がある。
何個かかわした後、リーグが僕に叫んだ。
「イバーエ、これ、どうにかしてくれ。」
助けを求めている。

アイワイさんは、何もしていない。
飛んでくる火の玉は、なんか糸みたいなものが、自動で弾いてくれている。
ただ、自動で弾いているうちに、何本かの糸が燃え始めていた。
一本、また一本。
それにつれて、弾ききれなくなってきていた。

ふたり同時に守る事が出来なかったと言うのに、どうやってこの無数の火の玉を処理できると言うのだろう。何も思い浮かばない。第二言なんて使えても、意味はなかった。

「ワン、ワン。」
メルツの声が聞こえた。
その時だ。僕の中にひとつのアイデアが浮かんだ。