「ブリア、杖を持て。」
ブリアさんがいつも持っていた杖から声が聞こえた。その声はエーマリリスだった。
「旦那様?どこに?」
「時間がない。とにかく杖を持て。」
杖の先に付いている銀色の鳥の形をした飾りが輝いている。
「これでいいでしょうか、旦那様?」
「bic、bic。」

どこからともなく雲が集まってくる。あっという間に、太陽は姿を隠した。まるで、台風の空のようだ。いや、それよりも遙かに雲が厚い。光は地上に届く事なく、昼夜が逆転したように思える。
その雲には無数の糸が付いていた。もう片方の先は、火の山に繋がっている。
その糸が一気に縮んだ。
雲が火の山を覆う。途端、激しい雨音が聞こえてくる。

「旦那様、何を?」
「いいか、ブリア。よく聞いてくれ。」
「はい、なんでございましょう?」

雨音は聞こえるが、地面はいっさい雨に濡れていない。この音がどこから聞こえてくるのか不思議な感じだ。

「今、言術であの火の玉を消そうとしている。」
「それで雨音がするのでね。」
「ああ。それより、そこにいる魔法使いの連中・・・やつらじゃ。」
「えっ。」
「やつらと申しますと、以前にお話いただいた・・・。」
「そうじゃ。」
「ど、どういたしましょう?お嬢様が、今、その魔法使いの前におります。」
「わかっている。そこにイバーエ君はいるか?」

雲の上の方から蒸気が漏れ始めた。そして、だんだんとその量は多くなっていく。溢れると言った感じだ。