その時だ。
“リストランテ ボンボヤージュに向かう”から、糸が出た。その糸は迷う事なく、女を狙った。
「なんだい、これ?」
女はとっさに反応し、その糸を避けた。
「えっ、なんなのこれ?」
何が起きたのか、まるでわからないと言った顔を、アイワイはしている。
「ホント、言術使いってやつはムカつくね。こんな仕掛けまで用意しやがって。ますます、いじめたくなったよ。」
「言術使い?ムカつく?」
アイワイには意味がわからない。
「とにかくねぇ、私はあんたをギッタギタにしないと気が済まないんだよ。」
わざと大声で言った。状況が飲み込めず、キョトンとかわいらしい顔をしているアイワイに、押さえようのない怒りを感じたからだ。
「えっ、えっ。」
それでもお嬢様として育てられてきた彼女は、自分の身を守ることすらピンと来ない。ただ、立ちすくんでいた。
「なんだい、その余裕?」
「えっ、えっ。」
別に余裕などではない。本気でどうしたらいいのかわからないのだ。そんなアイワイの代わりに、糸が必至に彼女を守っている。
「この糸、邪魔だね。れれ、もういいや。いたぶるのはやめるよ。とっとと殺しちまおう。糸ごとやっちまえば、関係ないよね?」
ねねに言われると、れれは巨体を揺らしてやって来た。
「でへっ。でへっ。」
さっきは遠くから見たから気がつかなかったが、側に来ると男の方は服装だけでなく、顔、そして言動もかなり変だ。
「さぁ、いくよ。」
ふたりは構えた。