「さて、どこにいるのかね?」
朱ずくめの女が言う。
さすが都会と言うべきだろう。こんな突飛な格好をして街中を歩いていても、まるで目立たない。むしろ地味に感じる事すらあった。
「ここはいいね。この格好してても、全然浮かないよ。いつもはこそこそしてて、何でこんな格好しなきゃいけないんだって思うけど、浮かなきゃ悪いもんじゃないのかもね。」
女はこの格好を気に入っていなかった。
「ねね様は何を着ても似合うから。地味なのも、派手なのも、ねね様はきれいだから。」
「あら、うれしい事言ってくれるね。この仕事が終わったら、なんかおいしいもんでもご馳走しようか?」
女は黒ずくめの男の言葉に、めずらしく気をよくした。
「でへっ。」
男も素直に喜んだ。

「れれ、ここら辺でもう一度確認してみようか?」
「でへっ。・・・サチス・ア。」
ふたりの目の前に、小さな矢印がぼんやりと浮かぶ。その矢印がクルクルと回転を始めた。
「さぁ、どっちだろうね?」
「どっち?どっち?」
まるで、ゲームを楽しんでいるかのようだ。
回転がゆっくりになり、そして止まった。矢印はふたりの右方向を指している。その方向に、なぜか人の姿はない。大きな馬車のようなものが、止まっているだけだった。