獲物をねらっているかのように、とても鋭い動きをした。
それに僕はだんだん慣れてきたけれど、ブリアさんの顔は青い。もう、限界のようだった。「大丈夫ですか?」と聞くまでもない。
“鮫、宙を舞う”の鼻先が、ピクピクと動いた。それを見て、ブリアさんはかなり無理をして、僕の方を向いた。
「どうやら、お嬢様の匂いを見つけたらしい。もうすぐ、位置が確定するだろう。そうしたら、イバーエ君・・・覚悟を決めてくれ。」
振り向いた事で、さらに顔色が悪くなっている。
「無理・・・しないで下さい。」
ブリアさんの事を心配してばかりで、その言葉をよく聞いていなかった。

体置いてかれる。そんな感じだ。
“鮫、宙を舞う”に乗っているはずなのに、僕の体はその場に置いていかれ、魂だけが連れてかれる。そんな感じだ。
速いとか、そう言うレベルを超越している。
ガクンと、ブリアさんの頭が動いた。
「うわっ。」
しかし、その声に反応する事はない。なぜなら、ブリアさんは白目をむいていた。つまり、気を失っているのだ。
「ブ、ブリアさん・・・。」
そんなブリアさんを見ると、僕も釣られそうになる。
ただ、僕はこの“鮫、宙を舞う”に慣れていない。嫌だと言いながらも、これに乗り慣れていると、気を失っても落ちない術が身につくらしい。その証拠に、ブリアさんの両手は取っ手をしっかりと掴んでいる。
僕には真似できない芸当だ。
つまり、僕は気を失ってはいけない。失えば、僕の形をした穴が、どこかの家の屋根に出来るだろう。
振り落とされないように、気を失わないように、ただ、それだけを考えていた。
僕がなんで、こんなのに乗っているかなんて、もう忘れていた。