彼は慌てていた。
屋敷の長い廊下には、彼の靴の音だけが激しく響いていた。

「た、大変です。」
僕は驚いた。
この大きな屋敷で、エーマリリスさんとアイワイさん以外の人を見たことはなかった。でも、聞こえてきたのは男の声だ。だけど、目の前にエーマリリスさんがいる。
「どうした、ブリア?そんなに慌てて。いつも言っているだろう。男が慌てている姿ほど格好悪いものはないと。もっと気を使いなさい。」
「あ、はい。申し訳ありません。」
注意された事もあってブリアさんは、冷静を装うとしていた。だからこそ、やっと僕に気がついたのだろう。
「あ、こちらの方は?」
「あ、ブリアにはまだ紹介していなかったか。少しの間、ここで働く事になったイバーエ君だ。あと、ここにはいないがリーグ君と言う子もおる・・・。」
エーマリリスさんが説明し終わらないうちに、また、ブリアさんは慌てだした。
「あ、じゃあ、たぶん・・・そのリーグさんです。そのリーグさんが・・・。」
「だから、落ち着きなさい。」
エーマリリスさんは、さっきより語気を強めた。
「す、すみません。それより大変なんです。」
結局、ブリアさんは落ち着いていない。エーマリリスさんは頭を抱えた。
「で、何が大変なんだ?」
「アイワイ様が、“リストランテ ボンボヤージュに向かう”に乗ってお出かけになってしまったんです。」
「何?“リストランテ ボンボヤージュに向かう”に乗って出かけただと?それは本当か?」
「は、はい。先ほど旦那様が仰いました、リーグとか言う者と一緒に出かけられたのです。」
「あいつめ、どういうつもりだ。」
すごい形相になっていた。でも、僕にはその理由がわからない。それと“リストランテ ボンボヤージュに向かう”って何なんだ?