図書館を一歩出ると、そこはもう……灼熱地獄だ。
汗は一気に噴出し、日陰に入りたくても歩くことがもうすでに億劫で、気力は尽きた。
もう一度図書館に戻ろうか?なんて考えも浮かび上がりはしたが、そんなことをしたって結局はこの地獄を先延ばししているに過ぎない。

つまり。

さっさとレポートを教授に提出して、電車に乗って帰るのが一番ってこった。

「なぁーんで俺だけこんな目に……」

なんて、いくら不平を口からこぼそうが、この状況が一変するわけでもない。
だからと言って、ぶつくさ言ってないとやってられないのもまあ確かなことであった。


「そういえば……」と男は呟いた。「確かあの日もこのくらい暑ーい日だったなぁ」

男は少し、ほんの少し、暗い顔になった。

「あの日は確か、」



入学して、初めの夏だったな。
その日も確か、教授に目をつけられて、レポートに使う資料を借りに来たんだ。
あれからもう、一年か。

そりゃあ、甥っ子の一人や二人くらい産まれるわなぁ。



嗚呼懐かしい。
もう彼女は、俺のことなんて憶えていないのだけれど……。

そう思って、男は一年前のことを思い出した。