乱暴に引っ張られて、歩く気力もない風の足音と、クミのケータイのボタンの音が静かなホテル内に響く。
『あっ、タツ〜?連れてきたよぉ。うん、うん、いや?うん、わかった。うん。』
何度か相づちを打つと、慣れた手付きでケータイを閉じた。
『三階の2〜…』
そこからは、よく覚えていない。
今からと思うと、怖くて足が凍っていた。
『ほら、早く歩けよ!』
何故かクミは、機嫌が悪そうだ。
そんなクミの叫び声と、風の泣き声に、周りのお客さんはあたし達を、迷惑そうに振り向いていた。
このホテルは、あくまでも普通のホテル。
旅行客のような人もいる。
『入れ。』
背中を乱暴に押されて入った部屋は、綺麗だけど、煙草の煙のせいで曇っている。
『お、トモじゃん。』
一人の茶髪の男が、トモに手を振った。
『おー、タツ。』
その名前を聞いた途端、足の力が抜けて、その場に座りこんだ。


