ウルトピは微笑んで続けた。
「あなたが望むのなら何時までも居て頂いていいのですよ。 でも歴代の大神官に力を貸してくださったフィユーたちはみな去っていかれました。20年、無事に任を勤めきれない大神官も居ましたし、不幸にも任半ばで亡くなられたフィユーもいらっしゃいます。 けれどもどのフィユーも例外なく、任を解かれた後はこの地を去っていかれました。 恐らくは故郷へ帰ったのだと私は思うのですが」
「私は故郷を知らないわ。 帰りたいと思ったこともないのよ」
「それでもなのです」
 そう言って優しくウルトピはトゥエンティを見下ろした。
「この世界はあなたにとって一夜の夢のようなもの」
トゥエンティは当惑した。
故郷・・・そんなものを考えた事も無かった。
大体伝承では、フィユーはこの羅針盤で呼び出された時に、世界樹の幹から生まれ出でるということになっている。
だから突如この世界にこの姿で出現したのだと、トゥエンティは半ば信じるようになっていた。
なのに今更ウルトピは、お前には故郷があるのだという。自分はそう思うなどという。
 なんにしても羅針盤祭にはまだ日があった為、トゥエンティはそれまでは何時も通り自分の任をこなした。災害の予知や、各国から訪れる王や執政者に対するアドバイスなどである。何時も通り穏やかな日が流れ、そしてトゥエンティは思った。
 羅針盤祭が終ったとしても、私は恐らくここに留まるだろう。
そして変りない日常を過ごすのだ。
変りなくここに在る最初のフィユーになるだろう。