通信の向こうで、兄貴は明らかに何かと戦っていた。
ギィンと鉄がぶつかる音。

「ドルガーか!?」

『そっちの方が、マシだったよ‥!!』

『誰かと話している余裕あんのか。スッゲェな』

兄貴の声に混じってしたのは、
アメスの頬にキスしやがったエル・ディアブロ。
『お邪魔する』って、こういう意味だったのかよ!!

『急げセレス! それに、アメス‥すが‥んだ‥‥く』

兄貴が話している途中で、通信が途切れてしまった。
全力で走る中、オニキスを見下げると
オニキスは俺のポケットから顔を出す。

「今、兄貴『アメス』って言ったよな!?」

するとオニキスはポケットから出てきて地面に落ちた。
おいおい、何やってんだよこんな時に!
オニキスを拾い上げると、オニキスが黒い光を放った。

「わっ、お前何して‥ッ!!」

一瞬、目の前が真っ暗になって目を瞑った。
そして、周りが途轍もなく五月蝿くなる。
人の悲鳴、物が壊れる音。

「‥は、ぇ?ここ、治安署ッ!?」

オニキスは俺の耳からイヤリングを外すと、
忙しく手の上に落とした。
逃げるのに必死な周りの人たちは
オニキスの姿が見えていないようだった。
そういやアメスが言ってたな。
オニキスもモーメントムーブが出来るって。

「オニキス、お前もどっかに隠れてろ!」

そう言って俺は、屋上に上がった。
今兄貴が居る場所は、屋上ではないだろう。
沢山の人の声がしていたから
大広間か‥図書館、かもしれねぇ。
あぁ、爺さんは今何処に居るんだ?
無事ならいいけど…。

バンッと扉を勢いよく開くが
そこにはファントムの姿が無かった。
兄貴がいないなら、もしもの時大変だと思ったが
どうやら兄貴と一緒にいるみたいだ。

俺は階段の踊り場から身を乗り出して、
一気に一階まで飛び降りながら武器を変形した。