それに、逃げても居場所がもうないから。
とチャロは消え入りそうな声で呟いた。
『お爺ちゃん』って‥あれ?
えっと、記憶の整理をしよう。
チャロのお母さんはルベおばちゃんで。
ルベおばちゃんのお父さんは爺さんで。
要するに、チャロは爺さんの孫。
‥チャロにとって、唯一の肉親関係。
あぁ、だからか?
図書館でチャロは正体がばれて攻撃を仕掛けた。
けど、軽傷程度で済ませたのは自分の肉親だと気づいたからで。
胸元に顔を埋めるチャロをただ見つめていると、
チャロは顔を上げて、俺の手を握った。
「‥全て、思い出したんですか?」
「全てとは限らないかもしれないけど、一応」
「そう、ですか‥」
嬉しそうな顔じゃないけど、安心した顔。
それを見て、俺はチャロの頭を撫でた。
「ゴメンな、今まで」
お前が今まで俺に見せていたあの表情。
あの欠片を愛おしそうに撫でていた時のあの表情。
悲しそうで、切なそうで、苦しそうで。
あの時はどうしたんだろう?としか思わなかったけど
だから訊いたりなんてしなかったけど
お前は、あの時を思っていたんだろう?
「お前一人苦しませてきた代償に‥」
そう、よく考えればな、思い出せばな。
俺は再開した当時、一体何に脅えていたんだろう。
『貴方の命、頂きます』
そう言っていたのに。
“殺す”なんてチャロは一言も言ってない。
‥まぁ、“死ぬ事になる”とは言ったけど。
『‥そんな事、もう結果は分かっているのに』
その言葉の本当の意味は、俺が捉えたものとは逆だったんだろ?
『もういいよ、俺のところに来なくて』
『‥何、言っているんですか?』
『俺、疲れてるんだよ。お前だって疲れるだろ、ここに来るのも、俺に会うのも。だから、殺せよ』
俺の口からこんな事吐かれた時なんて、
お前はどんな感覚だっただろう。
ぐらぐらと足元がぐらついて、現実感のない感覚だったんじゃね?
俺が言われたら、きっとそうなるからさ。
「くれてやるよ、俺の命」

