『え?』
何も言わなかったからか。
それとも、不機嫌な顔をしてしまったのか。
チャロは泣きそうな顔をして俺を見た。
『ずっと、わらわないから。わらったところ、みたことないから』
そうなのか?
俺、笑った事無かったのか?
チャロの前で俺はまだ笑った事なかったのか?
『どうしたらわらってくれるの?』
『‥ゴメン、今はまだ‥そんな気になれないんだ』
『‥‥』
そう答えると、チャロは黙って下を向いてしまった。
ヤバ‥、そういう顔させるつもりはないのに。
『でも、いつかはちゃんとわらうから。その時はチャロもいっしょにわらってくれる?』
思い詰めた声の俺に、チャロは顔を上げて
満面の笑みで頷いた。
風に揺れる白い花の中、
『約束だからね』と差し出される小さな手。
小指同士を絡めたのは‥―――
そう、これが初めてだったんだ。
「俺な、この戦いが終わったらさ、旅してぇんだ」
「‥旅?」
「そ、いろんなもの見て、いろんなこと聞いて。あ、いろんなもの食いてぇな」
「いいですね、そういうの」
「ぇ」
「もし全てが片付いた時‥、もしかしたら無理かもしれませんが‥‥私も、連れて行ってくれますか?」
「あ、あぁ」
「約束、ですよ?」
小指を差し出されたのは、この時が初めてだと思ってた。
でも、実際はもっと前に。
もっと幼い頃に約束していたことがあって‥
そういえば俺、お前の前でちゃんと笑った事あったかな‥。

