少し離れたところで、父さんと母さんが倒れていた。
燃えるカーテンの下で‥、瓦礫に埋まって。
母さんの頭からは出血していて‥‥。
父さんの左手は、母さんの頭の上にある。
‥守ろうと、して‥?
『危ないッ!!』
唖然と立ち尽くしている俺は、光線に気付く筈もなかった。
俺とチャロを突き飛ばして、
ベニトおじちゃんがそれを受ける。
『‥!!』
『大丈夫‥だから、早く逃げろ』
無理した顔で口の端を上げるその顔。
負った傷が、見る見るうちに消えていく。
何で傷が治っているんだとか。
何でこんなことになっているんだとか。
訊きたい事があるのに、恐怖、絶望で言葉が出てこない。
ちがう、こんなの‥夢だ!!
そう言い聞かせていると、手を取られた。
ルベおばちゃんは俺の震える手の上に、
きらりと冷たいものを落とした。
『‥さっきお部屋にいた時、渡しそびれたって言ってたわ。セレスくんのお母さんが貴方の為に作ったもの』
それは、父さんが使う武器と同じもの。
綺麗なシルバーイヤリングが武器になる、父さんの相棒は
母さんからのプレゼントだって言っていた。
それで、沢山の人の命を救ってきた。
それと同じものを俺に‥‥
『こうなること、分かってたのか‥?』
ぐっと形が歪むほど、強く握りしめた。
ずっと見ているけど全く動かない父さんと母さん。
考えたくないけど、嘘だといいたいけど‥‥
ドンッと大きな音がして見上げると、天井が落ちてくる。
『早く逃げてッ!!』
背中に強い衝撃が走って、俺たちは舞踏会場から追い出された。
イヤリングを失くさない様に深いポケットにしまいながら
煙が充満する会場を振り返る。
『お父さん!!お母さん!!』
『チャロ!早くここから出てッ!!』
『セレスくん、早くチャロを連れてここから出てくれ‥!!』
そう言われても俺は、そこから動けなかった。
今離れたら絶対に、もう一生父さんと母さんの顔が見れない。
直感がそう言っている。

