俺はアメスを振り返った。

「大変だったのよ? どこのクラーヂマンがこの子を間違った道に堕としたか見つけるの」

手足を拘束して、一週間拷問した。
それでもね、その子は口を開こうとはしなかったわ。

『吐かないのなら、貴方を殺すけど?』

『‥勝手に、すれば‥いいです、よ‥』

彼女はそう言っても、笑って返すの。
それが頭にきてね、持っていたナイフで切り付けたけど
私たちエル・ディアブロは治癒能力があるから
傷なんて付けても意味が無い。

「だから、殺してやろうとしたの」

「‥殺、す?」

「そう、でもこの子は死ななかったわ。確かに心臓を粉々に砕いてやったのに、死なないのよ」

‥心臓を砕く?
俺はその言葉の意味が分からずに、武器を強く握った。
砕くって、どういう事だ?

「心臓の位置が分からないから、殺せない」

だったらせめて、利用してやることにしたの。
この子は自我があったら使い物にならない。
だから自我を殺した、ココロを殺した。

「アメスのココロが死ぬ瞬間ね、一瞬だけ見えたのよ」




貴方の、存在が。



「‥‥」

「余程この子に愛されているのでしょうね。‥絶対に、叶わないだろうに」

クスクスと笑い混じりの声に、木が揺れる音。
吹く風が、酷く冷たく感じた。

…心臓の位置が分からないって、どういう事だ?

「殺したと言ってもね、それも私の能力の一つだから‥解けば戻るの。近くにいるモノに対してでないと使えないのが欠点だけど」

「なら、さっさと解けよ」

「ふふっ、その前にね、その子には一仕事あるから」

「‥‥」

「もし元に戻って、貴方の亡骸を見たらどんな状態に陥るかなぁ。想像したら、何か面白そう」

「は‥?」

「さて、仕事よ。アメス」

オバサンの声に反応してアメスが顔を上げた。
一瞬、強く吹いた風が俺たちを割った。
ゆっくりと向けられる視線に、俺が映るけど
アメスの表情は何一つ変わらない。

「貴方にとって、とてもいい仕事になるでしょうね」



その子を、始末なさい。