夏休みに入る少し前のことである。

蝉があちこちで煩く鳴き、冷房のために密閉された空間の中まで届くこともある。


「あぁ、暑かった」

「おはよう、そっか大学生も夏休みなんだね」

「おはようございます、廣岡さん」


夏だからだろうか、廣岡さんのメイクが少し変わった気がする。キツ過ぎないブルーのアイラインが綺麗だ。

そんなにメイクにお金がかけられない私としては、大人だなと思う。


「冷房入るの何時でしたっけ?」

「えっと、8時半だった気がする」

「あと10分が、暑いですよね」

「本当に、長い10分だわ」


私はタイムカードを切る前に、色々と動く……殆ど雑用だけど、やることはいっぱいあって、そのしわ寄せがくるのが学生のバイトなのである。

例えば、ブックカバーは折りすぎてても、問題ない。
ほとんどを土日や祝日で消費する。足りないと他に重要な作業がなければそっちを優先するくらい。

お客様優先とはこのことだと思ったくらいである。

しかし、折り目がきっちりしてないと気になる性格で、レジに入るとストック関係なく1種類につき10組ほど作る。
余裕があれば、片側だけ折っておいたり……サイズが大きいのは1から折るより片側だけその場で作ってしまった方が良いのである。

誰も気づかなくても、自分がお客様として来たときに手を抜かれたら嫌だから、その場の最善を尽くす。

これも私のモットー。