「あの、以前お店にいた者ですけど……覚えてますか?」

「もしやと思いましたが、そうですか」


2週間ほど前に、あの彼の背中をバシバシと叩いていた張本人が目の前にいる。

そのときとは打って変わって、ネイビーのストライプ柄のスーツに高そうな靴を着ているのだから、実際は直接関わったわけではないので、顔を見たときは尚更、半信半疑だったのだけれど。

本当に世の中は広いようで狭い、と改めて実感してしまう。


「ところで、後ろにいらっしゃるお二方は宜しいのですか?」


そうだった、道案内の途中。

軽く経緯を話すと、彼はあっさり“そこなら知ってる”と言うので、案内をしてもらえることになった。



*****



「本当にありがとうございました」

「いやいや、ぶつかってしまったお詫びには些か軽いですけど」


軽いだなんてとんでもない、助けてもらった上に今は夫婦の目的地であったホテル内にあるカフェテリアで珈琲をご馳走になっている。


「差し支えなければ、お名前をお伺いしても?」

「東 恵美と申します」

「エミちゃんねぇ……僕は監物 光則(けんもつ みつのり)。よろしくね」


苗字が変わってるでしょ、と終始ニコニコとしている監物さん。

珈琲を持った姿はまるで、出来る新入社員というより若社長だ。


「へぇー、大学生なんだ。大人っぽいから、僕と同じか、年上かと思ってたよ」

「それって、のんびりしてるの間違いじゃないですか?」

「そんなことないよ、自分は大学院なんかにいるけど、未だに落ち着けないし」


なんだかんだで30分以上話をして、別れを告げた。

そして、驚いたことに大学が同じだったために、まだ不慣れな私に何かあったときは頼りにして、とアドレスまで交換をして。

話に花が咲いたのは、その偶然のおかげでもあった。


でも私はずっと、買ったものの中にアイスが入ってなくて良かったと、家にたどり着くまで思っていた。