この日の授業を終え、まっすぐ家に帰ると……。

「パパー!パスポート持った!?」

「あっ、忘れてた!ママ!洗面具は!?」

「洗面所よー」

家の中では父さんと母さんが準備であちこち行ったり来たり。
ったく、前々からやっとけって話だよ。

「あら、流架ちゃんおかえり~」

「……ただいま」

母さんはおれに気付いたけど、またすぐに準備に戻っていった。

「おにーちゃん……」

「未有?ただいま」

足元で制服を引っ張りながら未有が小さな声で話しかけて来た。

「どした?」

「ママがね、おにーちゃんがかえってきたらごはん作ってもらってって」

……。
そんなことだろうと思った。

「待ってな、今作るから」

そう言っておれはボンポンと未有の頭を叩いてキッチンに向かった。

おれと未有が食事中も2人は部屋中せわしなく動いていて、結局落ち着いたのは未有が眠ってしまった後。

「ったく……明日も早いんだろ?
いい加減、寝ろよな」

母さん達はほぼ一日準備をしていた為終わった頃にはグロッキー。

「あ、流架くん。ごめんね、突然こんなことになって」

「いいよもう。おれと未有でどうにかするから」

「ありがと、流架ちゃん。
いいお兄ちゃんになったわね」

……そんな改まって言われると照れるじゃん。
この2人にもそんなこと言えるんだ。 なんかカンドーかも……。

しかし、子どもを残して海外に行く親に期待するものはないとおれは、すぐに気付くこととなる。

「あ、そうだ、パパ!お土産どうする?」

……は?

「そうだなぁ、何がいいか?」

「私、自由の女神様が欲しいわ!」

「はは、さすがにそれは無理だよ」

……本気か?
本気で言っているのか!?こいつらは!

「あー、明日が楽しみね!」

「そうだね。そろそろ僕たちも寝ようか」

「ええ。じゃあ流架ちゃんおやすみなさい!
流架ちゃんもあまり夜更かしちゃだめよ? 明日から流架ちゃんががんばるんだもの」

腕を組みながら寝室に消えていく2人を見て、おれは自分に固く誓った。
――あんな親には絶対ならねぇ! それと明日からなんとしても乗り切ってやる!

……と。