「そうじゃなくて、なんで今更おれが送り迎えなんて……」

今までフツーに母さんが行ってただろ!?

「ママたちね、明日からお仕事でニューヨークに行くの。ねー、パパ!!」

「うん」

は?
ニューヨークって、あのアメリカの?

「な、なに言ってンだよ!! そんな話聞いてねぇぞ!」

「だって、流架ちゃんには初めて言ったもの。
知らないはずよ?」

おかしな子ねぇ。
そう言って母さんは父さんに笑いかけた。

おかしい? おれには言ってない……?
どっちがおかしいんだっつーのッッ!!

しかも、おれにはってことは未有には言ったってことかよ!?
だったらなっんで、一緒に話さねぇんだよ!!

大体からしてなんだ、明日からって!!
いくら仕事場が一緒だからって2人揃って行くことねぇだろ!!

それに、そんな急に言われても

“はい、分かりました”――

なんて納得できるかっつーの!!
脳天気にも程がある!!

そして再びパンを口に運びながら、母さんはとどめの一言を……。

「まあいいじゃない。
流架ちゃん、家事得意なんだから」

……張っ倒すぞ?

確かに家事は得意だ。
仕事で留守にしがちな両親の代わりに、色々やってきたから。
でも今回のことはスケールが違う。

どんだけ向こうに居る気か知らないけど、ニューヨークだぞ?
アメリカだぞ!?
海外なんだぞ!?

高校生の男1人にどうしろっつーンだよ!!

「大丈夫よ。
ごはん作って、未有ちゃんの送り迎えして、学校行けばいいんだもの」

そんなアイドルスマイルで微笑まれても息子の俺には効かねぇっつーの!!
それに簡単に言うけど、それだけやるのがどんだけ大変だと思ってンだ!!

学校もあるんだぞ!? おれの体がもたねぇよ!

おれが怒りを抑えられず肩を震わせていると……

「未有ちゃんだってお兄ちゃんと一緒なら安心よね?」

母さんの矛先がおれから未有に変わった。

「うんっ!
みゆ、だいすきだもん!」

「ほら、未有ちゃんもこう言っているのよ?」

「く……っ!」

ひ、卑怯だ……!
おれが未有に弱いことを知ってて言いくるめようとしやがって!