「ん~でも憧れるよなぁ」

弁当を口に運びながらおれは呟いた。

「え…?」

「いや、凛先生だよ。
背も高いし、男前で、やさしくて頼りがいがあって……。
おれもあんな大人になりてぇよなぁ」

おれなんてチビで、童顔で、落ち着きないからかなり理想的だよなぁ~。

「………なぁ、流架。
その保育士、信用していいのか?」

「え?」

「そんな完璧なヤツってなーんかウラがありそうじゃねぇ?」

「はははっおまえ、なに言ってんだよっ
そんなことある訳ないじゃん!」

なにを言うかと思えば……あ、ありえねぇ…!
だって、あの凛先生だぞ!?

誰にもやさしくて、いっつも笑ってる凛先生が二重人格だなんて

「大体からして、1ヶ月だけの付き合いのおれはともかく…
あの園の人たちは毎日顔を合わせてるんだぜ?
とっくに正体バレてるだろうよ」

「でも…
聞いてる話だと頭相当キレそうな感じだけど…」

「そうかぁ?光輝は実際に会ったことねぇから判んないんだよ。
いい人だぞ。あの人は」

それでも光輝は納得のいかないような顔をしてる。

こんな光輝初めて見たな。

んー。
ホントにいい先生なんだけどなぁ…。

「憐れ、光輝!
必死の抵抗、伝わらず!!」

「うるせぇ!
だまれ、バカ大!」

また2人してわけの分からないことを…。

「なぁ、2人とも。
意味わかんないからおれにも分かる話してくれる?」

と、本気でそう思ったから言ったのに…。

なんで!?
大介のヤツ、更に爆笑!!?

「ぶわっはっはっ!!
流架、おめぇが一番関係あんのにっ」

へ?
おれが一番?なんで!?

「大~!
キサマ、沈めるっ!」

ついにキレた光輝は、持っていた弁当を放り出し、大介に向かっていった。

大介は大介で、弁当を持ったまま逃げ回っている。

……楽しそうだなぁ。

その光景を見ながら、おれはのん気にそんなことを考えていた。

しかしこのとき、光輝の話を信じていればよかったと後悔する日がこの後すぐにやってくることとなる。