「ただいま帰りましたー。五十嵐未有の兄ですがー」

「おかえりなさーい!」

授業も終え保育園についたのは、4:45ごろ。
んー、まあこんなもんか。

帰りも朝と同じように保育士さんたちが挨拶をしてくれる。

「おにーちゃーん!」

おれの声に気付いた未有が、パタパタ走ってやってきた。

「ただいま、未有」

「おかえりなさい」

すると、入り口からだと死角になって分からなかった部屋の隅から、担任の綾瀬先生が笑顔で出てきた。

「あ、こんにちは。
どうもありがとうございました」

「礼儀正しいんですね。
未有ちゃん、とっても元気に遊んでいましたよ」

……褒められてしまった。
にっこりと笑いながら話す姿は本当に見惚れてしまう。

「せんせーさよーならー!」

未有は大きく綾瀬先生に手を振ると、おれの手を引き、玄関に向かった。

「さようなら」

おれも先生に軽く会釈をし、未有のあとについていった。

「未有、綾瀬先生優しい?」

帰り道、嬉しそうにスキップしてる未有の手を引きながら、おれは聞いてみた。

「あやせせんせいじゃないよ!
りんせんせいだよ!」

さすが幼児……。
細かいところまで……!

「ああ、ごめんごめん。
凛先生はやさしい?」

「うんっとっても!
いっつもみゆたちとあそんでくれるし、おえかきじょうずにできたら、たっくさんほめてくれるんだよ!」

「そっか」

「あやちゃんのママとか、はやとくんのママとか、せんせいたちもすてきねーっていってたよ!」

そうだよな。

あんなにやさしそうな人だもんな。
きっと、かなりの人気者だよな。

無邪気に話す未有を見てなぜかおれは素直に喜べなかった。

―――ツキ…ン…

あ、れ?
なんだ?今の。

なんか胸が痛い…?
おれ、どっか悪いのか?

しかし、その胸の痛みはすぐに消え、おれは特に気にすることもなく家までの道を歩いた。

そして、この胸の痛みがおれを深く深~く悩ませ、更には、おれの処女まで奪われてしまうまでに、そう時間はかからなかった――。