「びっくりしましたよ。
先ほど別れたばかりの流架くんから電話が来たと思ったら、電話の向こうでは未有ちゃんが泣いていたんですから」

凛も、未有の前にしゃがみこみ頭を撫でた。

「でも、大事にならなくてよかったですね」

「う、ん」

「さ、未有ちゃん。
お兄ちゃんも元気になったことだし、もう一度眠りますか?
僕が寝かせてあげましょうね」

「ほんと?やったぁ!」

未有は、嬉しそうに凛にしがみつきながら、寝室へと入っていった。

寝室の扉が閉められ、一人になったおれは、ソファへと腰を下ろした。

誰もいなくなったリビングに一人でいると、再びおれの中にさっきの恐怖がわきあがってくる。

偶然が重なって、助かったけど、もし、未有が眠ったままだったら……?
おれが、携帯を落としてなかったら……?
凛が来てくれなかったら……?

そう思うと、体の震えが止まらなくなって、おれは自分の体を包むように抱きしめた。

それからしばらくすると、寝室の扉が開き、中から凛が出てきた。


「未有、寝た?」

おれはその場に立ち上がり、未有のいる方を見ながら、凛に聞いた。

「ああ。ぐっすりだ」

「そっか、ありがとう」

そして、再びソファに座ろうと、しゃがもうとしたその時、

「……流架、風呂場はどこにある?」

凛は、腰を下ろすのを阻むようにおれの肩を掴むと、突然そんなことを聞いてきた。

「え?」

なんで風呂?
走ってきてくれて、汗かいたから?

でも、その目はくつろぎたいから……といった感じではなく、
むしろ怒っているような、そんな目だった。


なんで?

「え、と、廊下出て突き当たったところだけど……
お風呂入りたいの?」

「まぁ、そんな所だ。
……案内しろ」

「?
う、うん……」

凛の気迫に圧され、おれは素直に凛を風呂場まで連れて行った。