「知ってる……」
「はぁ?」
「“王子”のこと知ってるもん」
いつもみたいに千秋とは言えずに王子と言った。
唇がカタカタと震える。
女の子達がみんな不満気な顔であたしを睨む。
釘で打ち付けられたような感覚に全身が強ばった。
「どういうことよ?」
女の子の息が唇にかかる。
勇気なんて持ち合わせてない。
戦意なんてもうゼロに近かった。
あたしは彼女です……なんてとても言えなかった。
だけど悔しかったの。
千秋をなにも知らないと決めつけられたことが堪らなく悔しかったんだ。
「千秋が好きだから……」
そう言えたのはあたしの瞼に浮かんできたのが、王子様の意地悪な笑みじゃなく、ブラウンの瞳を緩ませて笑う王子様だったから。
自分の気持ちを掴みかけてきたからだった。


