『もう来なくていい』
低い声で言った千秋の言葉が耳から離れない。
どういう意味がこめられていたかはわからないけど、わからないままでいいと思った。
直接的な言葉を千秋から聞くのは嫌だ……。
だったらハッキリすればいい。
ほんとに好きな人が誰なのか気持ちを確かめて答えが出たら、迷わず本当の気持ちを伝えればいい。
行き場のない気持ちを抱えたまま羽鳥の家の前までたどり着いた。
羽鳥の家のチャイムを鳴らす。
「はぁい〜」
あれ……?
女の人の弾むような声がした。
表札を確認すると羽鳥の家で間違いなかった。
羽鳥のお母さんかなって思ったけれど、声があまりにも可愛いというか若いというか。
ちょっと失礼なことを考えているとパタパタと足音が聞こえた。
――ガチャッ
「あら?」
ドアが開いて声の主が顔を出す。


