「シイはなにもわかってないよ。雅弥がどれだけシイを好きか。どれだけ想いを押し殺してきたか」
コウちゃんはいつになく真剣な顔をして言う。
こんな顔をしたコウちゃんは初めてだった。
「こないだ雅弥に、シイに話があるから教室に行くって言われて、オレは駐輪場で待ってたんだ」
コウちゃんは唇を噛みしめる。
「そん時、戻ってきた雅弥がどんな顔してたかシイにわかる?泣きそうなくらい辛い顔してるクセに雅弥は笑って誤魔化した」
どんな顔をしていたかはわからない。
だけど羽鳥の傷ついた顔が浮かんできて、ズキズキと切り裂くような痛みは次第に激しさを増す。
「いつも雅弥はシイでいっぱいなんだ。なのに二人とも好きなんて言われて、雅弥が喜ぶもんか!」
コウちゃんが捲し立てる。
ぶつかってくるコウちゃんの言葉の一つ一つが、ずっしりとのしかかり不安定な気持ちが揺れた。


