「オレにしとけよ……」

「……っ」

「オレならシイを泣かせねぇよ。んな顔させたりしねぇから……」

「離して……」


視界が滲んでいく。

これ以上、羽鳥の優しさに触れるとズルい考えが浮かんでくる。

羽鳥の優しさに甘えて辛いことから逃げたくなる……。

もし羽鳥に恋をしていたら、こんなに辛いこともなかったのかな。



「離してったら……!」


ズルい考えに染まる思考を振り切るように、あたしは羽鳥を突っぱねた。

鞄を掴んで逃げるように教室を飛び出した。

背中に羽鳥の声が聞こえた。



「“椎菜”が好きだ……!」


――あたしの心の奥を鉄砲玉みたいに撃ち抜いた。


絶対に変わらないと思っていた。

“友達以上恋人未満”

恋にはならないと思っていた。


初めてあたしを椎菜って呼んだ羽鳥の言葉に、あたしの気持ちが揺れ動いたような気がした……。