「誰が“鬼”だって?」
わわわわわっ!
「き……聞こえてるじゃない!」
「お前も言うようになったじゃねぇか」
もう、やだやだ!
バッチリ聞こえていたクセに、聞こえていないフリをするなんて!
「どの口が言うのかな?」
千秋の長い睫毛が視界いっぱいに広がって、あたしは恥ずかしさを隠すようにパチパチと瞬きする。
抑えられた頬が熱を持つ。
「へ…部屋に戻る……」
勢いよく千秋の両手から顔を背けて立ち上がった。
こうするしかこのドキドキから逃げられないんだもん!
「今戻ったら、最中かもしんねぇよ?」
「は、は、はい?」
「邪魔すんなよ」
クスッて笑い声が聞こえた。
たぶんあたしは5秒くらいフリーズしていた。
その間に千秋は立ち上がって、ドアの前に立つあたしを通せんぼするかのように入り口を塞いだ。


