「身代わりにしたくてシイに近づいた。だから学校の屋上で王子にシイを譲ってくれってバカげたことを言った。シイが困惑するってわかってて、あんなこと言った」
千秋に屋上に呼び出された時に、黒澤拓海が居て、塔屋から降りてきた千秋にもおかしなことを言ったんだ。
初めて会ったあたしにも訳のわからないことを言ってきた。
――全ては身代わりにするため。
「……シイをアイツと重ねて見てたんだ。シイを身代わりにしたら楽になれると思ったから。未練がましいけど、まだシズナが忘れらんなくてさ。逃げてるだけなんだ、オレ……」
堰(せき)を切ったように話す黒澤拓海は一度天を仰ぎ、大きく息を吐いた。
「ま…まだ、好きなんでしょ?」
あたしの問いかけに言葉を詰まらせた。
その女の子のことを、きっと黒澤拓海はまだ……。
「好きだよ」
呟いた声はとても小さかった。


