視界が大きく揺れた。
反射的に強く瞑った目を開くと、あたしは羽鳥の腕の中に居た。
「嫌いになれるわけねぇだろ」
頭上で響く羽鳥の声。
久しぶりに聞いた声。
ギュッと力がこもる腕はとても暖かい……。
爽やかなシトラスの香りに喉の奥が苦しくなって、声が出せない。
「ったく人の気も知らねぇで。お前のこと嫌いになれたらよかったのに、ダメだった……」
少し乱暴な口調はいつもの羽鳥で、それが無性に嬉しかった……。
あたしはシトラスの匂いが染みついた羽鳥の胸に顔を押しあてた。
「ごめ…なさい……」
「謝んな。バカじゃねぇの」
嗚咽を抑えることが出来ないあたしは恥ずかしさも忘れて泣いた。
羽鳥を近くに感じられる。
小さく息を吐いた羽鳥はそんなあたしの頭をそっと撫でてくれた。


