千秋は「フッ」と微かに笑みを漏らすと、黒澤拓海の目線に合わせるようにかがんで、火のついたタバコを奪った。
「ガキがタバコなんて吸うなよ。返せ」
そんな言葉も千秋には届いていないみたいで、ブラウンの瞳は鋭く光り黒澤拓海を捉える。
そして口を開いた。
「オレが椎菜を譲るとでも思ってんの?」
千秋はそう言って黒澤拓海が背を預けているコンクリートの壁に、奪ったタバコを勢いよく押し付けた。
タバコの火が黒澤拓海の耳にあたってしまいそうなほどだった。
「大人のクセに、ガキみてぇなこと言ってんじゃねぇよ」
千秋の瞳には仄暗いモノが宿る。
その一言を酷く冷淡な口調で言うから、黒澤拓海はそれ以上何も言葉を発することはしなかった。
イヤホンで耳を塞ぎ、あたしに視線を送ると黒澤拓海は屋上から立ち去った。
その瞳が悲しげに揺れたように見えたけど、声をかけるこはしなかった。


