「聞いてたのか?」
「嫌でも耳に入ってくるっつの」
やっぱり聞こえていたらしい。
あたしは立ち尽くしたまま二人の会話を聞いていた。
「なぁ、王子?やっぱり言わせてもらうわ」
黒澤拓海はストンと座って再びタバコを取り出して火をつけた。
「言ってみ?」
千秋の挑戦的な顔は相手にとって挑発ともとれてしまう。
二人の間には険悪な雰囲気が流れていて、黒澤拓海が眉をしかめたのをあたしはハッキリと見た。
そして目が合ってしまったあたしは目を逸らそうとしたけれど、黒澤拓海がそこで口を開いた。
「椎菜のこと、譲ってくんねぇー?」
はい……?
譲るって、何を言ってるの?
唖然として言葉も出ない。


