「きゃっ……」
千秋は立ち上がりあたしの腕を掴むとそのまま連れだそうとする。
パニックに陥るあたしでも頭の中ではわかっていた。
今はバイト中でお客さんも見てるし、お姉ちゃんのお友達やスタッフの人達にも迷惑がかかるって。
それでも千秋の強引さが今は何故か嬉しくて、掴まれた手が熱を持つのがわかった……。
「お客さん、困りますよ〜。うちの店員は品物じゃないんで」
お店から出る直前に黒澤拓海の声が背中に響いた。
黒澤拓海は嫌なヤツで大嫌い。
でも、今言ってることは正しい。
「自分の女連れだして何が悪い」
ざわつく店内でお客さんからの視線を浴びても、千秋はポーカーフェイスを崩さずに、振り返る。
黒澤拓海は意味深に笑う。
そして千秋からあたしに視線を変えた。
「シイ、また会おうな?」
それだけ言うとホールに戻っていった。


