どうしよ……!
とにかく落ち着くのよ。
自分に言い聞かせて、深呼吸。
「おかえりなさぁい〜」
リビングからユリさんの明るい声と、走ってくる足音が聞こえた。
きっと玄関で千秋を出迎えたんだろう。
「ユリ、来てたのか」
「うんっ」
「兄貴に用事?」
「今日はね、千秋に話があるの」
二人の話し声が側で聞こえる。
あたしはラベンダーの芳香剤が香るトイレの中で息を潜めていた。
「話?その前にトイレ行ってくるから、リビングで待ってろよ」
ひょええええー!
あたしは急いで鍵をかけた。
でも、足音が近づいてきた。
「ちょ…ちょっと千秋!トイレならさっきからずっと春くんが……」
その声に千秋の足音が止まる。
「お腹が痛いみたいよ……」
「ったく。つか、兄貴に頼まれたもん売ってなかった」
「そ、そう……」
漫画のことだ……。


