緑の魔法使い

橘君はその後を追いかけるように奥へと入っていくから私もついて行けば広いキッチンには山のように餌箱が積み上げられていて

「手伝おうか?」

「うん。ハリーからお願いね」

「鼓都さんなんだけど・・・」

「そう!鼓都さんちょっと付いて来てもらえる?」

言って私を手招きして二階へと続く階段を上っていく事になった。
すると何処からか仔犬が現れ、足元を懸命についてくる。

「ああ、ついてきちゃったのね。じゃれてるだけだから気にしないで」

白い毛玉のヌイグルミのような仔犬の可愛らしさに思わず手が伸びそうになる。

「埃まみれになるから私の服でよければ着替えて」

決して私が着る事もないつなぎの服を渡される。

「結構毛まみれになるから、着替えた方がいいよ」

よく見れば凛さんの黒いシャツには犬の毛が絡まっていて、服を汚した事もない私は初めての事に素直に頷いた。

「凪君の所に入るって聞いたけど体調はどう?」

え?と振り向く。

「凪君から貰う薬って医師としては怪しいけど、悔しいほどによく効くからねー。
うちでお手上げな病気の時こっそりずるして凪君に助けてーってついつい頼っちゃうのよね」

医者なのに大丈夫だろうかと思うも、ケラケラと笑うのをみながら着替える。

「はいっ。日焼けしないように帽子を被って」

つばの広い麦藁帽子をかぶせてくれるも限りなく似合わないのは丁度鏡に映りこんだその姿が証拠だ。