「この辺の野良犬は雌犬でおびき寄せてほとんど捕まえたらしから安全だけど、冬になると猟のシーズンが始まってね、犬を山に捨てていく人が居るからいたちごっこらしい」

呆れる言葉どおりに飼い主のマナーの悪さに言葉が出ない。

「まぁ、凛さんは・・・動物病院の先生の名前。拾っちゃえば血統書も関係ないけど、調教済みの立派な高級な犬がただで手に入るからって喜んでいるけどね」

図太いというか、あまりの逞しさに微笑ましくなってしまう。

「楽しそうですね」

「体力が有り余っている犬の散歩ばかりさせられるから、こっちはもうくたくた」

ご飯食べながらも何度も欠伸が出てしまうのがその証拠だろう。
夏の日差しを受けて犬とこの長閑な山間を散歩する。
こんな体だった為に動物は飼えないと言われ続けてきたが、動物は嫌いでは無い。むしろ飽きるまで写真集とか見てはいつか飼う夢を抱いていただけに興味は尽きない。

「よければ私を連れて行ってはいただけませんか?」

箸を置いて居住まいをただしお願いをする。
煮豆を口に運んでいた橘君は驚いて瞬きをし、

「・・・犬が好きなの?」

「うん」

ひとつだけ頷けば綾瀬川と羽鳥が一斉に声を荒げる。

「それはなりません!」
「お嬢様、犬の毛などでお熱が上がったりしたらどうなさるつもりですか?!」
「療養なさっているのに万が一の事があったらいかがなさいますか」
「だけど、なんか体調も良いみたいだし、少し体を動かさなくちゃ」

いっせいの猛反対にあうも、実は寝て起きてから随分と体が軽い。
ここ数年味わった事のない無痛に意欲は自然と湧く。
それに最後のご飯を口の中に放り込んだ橘君は

「そうだね。無茶はさせれないけど体は動かした方が良い」

なんて事を・・・と言いたげな綾瀬川の顔面蒼白なのを無視をして橘君はお茶を啜り

「治療はほぼ終わってるんだ。折角の夏休みだし、ここでやりたい事があったら言ってよ」

私の初めてのアルバイトの体験が決まった。