緑の魔法使い

タオルを頭から被り、ガシガシと拭いていればどこからか小鳥が側へとやってきた。

「久しぶり。ちょっと待ってて。駅で買ったパンがあるから」

そういい残して家の中に置いた鞄をあさる。
すぐに潰れたメロンパンが見つかり、千切って外へと放り投げれば、すぐさま二羽、三羽と集る。それ所か、どこからか現れたリスなどもやってきて、物干しそうな目で遠くから見ていた。

「もうあげないよ」

そういってもう一欠けらをリスへと投げれば、どこからか仔リスもやってきて、咥えたかと思えば親子で去って行ってしまった。
姿が見えなくなったかと思えば、今度は鹿がどこからか側にやってきた。
側に擦り寄ったかと思えば、その雄雄しい角を何度もこすりつける。

「随分伸びたね。ちょっと待ってて」

納屋へと向かい、枝を切るのこぎりを手にし、

「それじゃあ少しだけ貰う。がまんしててね」

のこぎりをその角に当て根元から左右の角から貰う。
当然のように流れ出した血を止めるように手をあて

「大事に使わせてもらうよ」

血を拭うように被っていたタオルで綺麗にすれば、そこが角が切り取られたばかりの場所とは思えないくらいの痕だけを残していた。

鹿は一度だけ頭を俺へとこすり付けてまた山へと戻って行った。
鹿の角は漢方としても使える。
買えば高額だし、滅多に手にも入らない。
狩猟をしている人たちから分けてもらう事もあるが、確実に手に入る保証は無い。
水瓶に溜まり出した水で拭い、乾燥させる為に縄で結んで軒先にぶら下げた。