緑の魔法使い

一夜明ければ、朝から猟友会の人が庭に車を止めていた。
挨拶に出迎えれば一行は鼓都さんの黒塗りベンツを物珍しそうに見て啓太さんが
「親父さん新しい車買ったのか?」
なんて、そりゃ売りに出されていた蒼河の土地を総て取り戻した人だ。これくらいのベンツは持っているが
「いえ、お客様がお見えになってます」
「そりゃ大変だ」
蒼河の客といえば病人と決まっている。
「とりあえず今日は北の山の方を探索してくる」
「北は、猪が子育てしているからあまりちょっかいかけないでよ」
「ああ。猪の通り道の確認が出来ればいいんだ。この辺は親父さんのおかげで山が護られているから被害は少ないけど、他所から移ってきた獣が畑を荒らしてさ。冬場も随分と狩ったはずなのに、畑の被害がまだ出る」
「味を覚えちゃうとね」
どの山村でも抱える問題に頭を痛めるも
「とりあえずは数の確認しないとな」
「そうだね」
話しをしている合間にメンバーが揃ったのか一同山へと向かって歩き出した。
メンバーの中には女の人も居て、どうやら山歩きに誘われたという。
山道もない山でそんな軽い気分で入山して欲しくは無いが、軽装がこのメンバーの中では一番しっかりとしている山歩きのプロのようだ。自己紹介では色々な山のトレッキングの経験があり、未開の山に挑戦してみたいというがなかなかチャンスにめぐり合えなかったという。
迷子にだけはならないでくれと見送りながら、俺は漸く起き出したお嬢さんの朝食の準備に取り掛かった。