見渡す山の風景がまさか総て自分の家の土地と言う冗談も言いたくなるような広大な敷地にぽつんと立つ、江戸時代より続く家は農家のような作りのとにかく古い家だった。
だが、そこそこ手入れして幼い頃は足で蹴飛ばして開けていたドアも今では片手でスムーズに開く。
家を二分するように勝手口まで伸びる広い土間に入れば幼少の頃より代わる事のない懐かしい風景に、この山道の疲れなんて忘れてしまう。

「ただいま、母さん」

6歳の頃に山で山菜摘みをしていた母が崖から足を滑らしそのまま亡くなった母の仏間を大きく広げ、部屋の空気を帰るように何ヶ月と閉ざされた雨戸を開ける。

「今日から夏休みなんだ。向うよりこっちの方が涼しいから、義父に断わって戻ってきたよ」

元々母子家庭だったが、母亡き後父親の元に行くも、そこでは上手く親子関係を気付けないまま父は他界した。
上手く親子関係が築けなかったと事うのは間違いかな?
母は元々父の愛人で、父の正妻と上手く行かなかったために、親子関係も築く事が出来なかったが正しいところだろう。
その代わりと言うか、父はそれなりにいろんな事を教えてくれたのだから、父とは上手くやっていたのだろうと、遠い昔を思い出しては今なら納得していた。