長い夏休みが始まった。
8月いっぱいの長い休みは高校三年生の俺にとっては戦場なのだが、今更じたばたしたって始まらないし、進学をやめてここで暮らすのも悪くないとも考えている。結局の所父が最終的な進路を決めるので、その進路に応える事が出来る程度に学力があれば良いと、父の秘書はそう言ってくれて、少なくとも今の成績ならその程度に応える事が出来ているので高校生最後の夏休みを悔いがなく過しなさいとのお達しが総てだった。
とりあえず、日がな一日山に入り、無駄な枝を切り落とし、雑草を刈り取ったり、薬草の面倒を見たり、時折そばに寄って来ては甘える動物達の相手をしたりと、充実した日々を過していた。

八月に入った三日目の朝だった。
角を切り落としたあの鹿が何度も家のドアをコツコツと叩くので外へとでればすぐに彼は山へと戻って行ってしまう。
こういった行動がないわけじゃないが、こういった行動するには意味があるはずだった。
猟友会や村人達はそろそろ山の恵みを満喫して中だるみをしている所のせいか、今日は日が高いというのに誰もまだ訊ねては来ていなかった。
なんだ?なんて思いながら水瓶で顔を洗えば、遠くから車の音。
しかも聞き覚えのない車の音は、サイズのわりに静かに家の前に止まった。