そんな思いで一杯だと言う事に気づかない彩。


だから、栄達に馬鹿にされるのだ。


「月妃さま、わたくしのような者がよろしいのですか…?」

月妃付きは、相当な名誉だ。


「いーの、いーの」

気にするなとでも言うように、手を振る。


陛下の室の前まで来て、彩が声をかける。


「彩です、お邪魔いたします」

翠翠を目で促し、部屋に招き入れる。


「ずいぶんと長風呂だな?」

「はい、この娘…万 翠翠と申します。本日よりわたくしの側使えをしてもらいます。どうぞよしなに」

白夜は、カッターシャツの前を惜し気もなく開けており、翠翠の顔は真っ赤になる。


逞しい武人の身体だ。


「翠翠…と言ったか?月妃を頼むぞ」

「い、命に替えましても」

そう言って、平伏する。
頭を絨毯に擦り付ける。


「翠翠…命に替えなくていいの、あなたには家族がいる。私はもう会えない家族がいるの、自分を無駄にしちゃ駄目。簡単にそんな事言っちゃ駄目。私の為に犠牲になってくれても私は何もできないから…」

最後は目を逸らし、悲しげに呟く。


「いいえ、月妃さまは私ごときを助けて下さいました、今度は私が月妃さまの助けになる番です!」

ドキリとする、こんなに真っ直ぐに私を信じている子に、一瞬でも望まないかもしれない陛下の側姫をやらせようとしている。


故意に…彩も栄達や宰相となにも変わらない事に気づく。


国の為という大義名分もなく自分の為な分、彩の方がたち悪い。


翠翠を立たせる。


「だが、朝は朝食の時間から…夜は晩飯の時間までだ」

「心得ました」

心なしか、頬を染め是と頷く翠翠。


「え…!?」

「プライベートは誰も入れていない」

あ…そうだ。
メイドさん達も、朝食の時間に初めて会う。


彩の計画は、無理なのだろうか。


「それでは、御前失礼いたします」

礼をとり出ていく翠翠。


ドアの閉まる重厚な音がした。



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