サクラのエリコ

「ちょっと貸して!」


カスミは近くにいたバイカーに声をかけた。


「はぁ?何言ってんだ?」


当然の反応である。映画のようにバイクを借りてさっそうと…なんていく訳がない。


「お願い!友達が拉致られたの!助けて!」


「うーん」


カスミに真剣な瞳で頼まれ、バイカーは一瞬息を詰まらせてしまった。



エリコを拉致ったバンはすでに見失ってしまった。丁度帰宅ラッシュに紛れて上手く姿を眩ませていた。

普通なら闇雲にバンが消えた方角を追うだろう。
しかしカスミは全く逆の方向へ向かった。

先ほどのバイカーはカスミを後部座席に乗せ、渋滞する通りをすり抜けていく。
普段バイク便のドライバーとして働いているとかで、その運転技術は確かなものであった。