雪に消えたクリスマス

「えぇ………創真………創真もいれば、もっと楽しい旅行になったでしょうにね…」
 そう言った母の目は、俺を通り越して、どこか虚空を眺めていた。
 母には、俺の姿が見えていないのだ。
 こちらから、こんなにハッキリと見えるというのに…。
「あいつも、いつまでも子供ではあるまい…お前も、いい加減こばなれしないとな…。さ、行くぞ?」
「………えぇ」
 そして、父と母は、ゲートをくぐる列にならんだ。
 その時、先ほど隅の方で密談をしていた外国人の仲間が、父達と同じ列に加わった。
 外国人は、内ポケットに閉まった物を確認すると、口の端を引いた。
「ふ………後五時間後には………」
 男の心が俺に流れ込んでくる。
 俺の目に、炎上する飛行機と、男の高笑いをする姿が見えた。
「だめだ!父さん!母さん!その飛行機に乗っては!」
 俺の叫ぶ声が聞こえたのか、一度だけ、母は俺の方を振り向いた。
 そして、ニッコリと微笑み…飛行機の搭乗ゲートをくぐった…。
 ガッチャン。
また、扉…………。
 父さんや母さんは飛行機事故なんかで死んだのではなく、飛行機その物がハイジャックされたのだ………そして………。
 俺はいたたまれない気持ちで、目の前にある扉に力無くもたれかかった。
 もう一度同じ扉を開けてみたが、そこにあったのは、白い壁だけだった。
 これは…本当に単なる幻なのだろうか? 
 俺は、いったいなんのために、こんな物を見させられているのだろう…。
 もう、扉を開けるのは止めようか?
 次々と、嫌な事を思い出しそうだ…。
 思い出す………?俺は、いったい何を忘れているというのだろう?
 何か、大切な事を忘れている気がするのだが…。
 俺は、五番目の扉を開けた…。
 パッパァー!!
「うわっ!」
 突然目の前にトラックが現れた!