雪に消えたクリスマス

　やっと顔を上げた彼女の顔を見て、俺は思わず「あっ」と、声を上げた。
　なんと、髪の長いその女性は、ウララにうり二つだったのだ。
「………ウララ？」
　思わず、ウララの名前が、俺の口から漏れる。
　ただし彼女は、俺の知っているウララよりも髪は長いし、顔も少し痩せているだろうか？
「あの？失礼ですが、人違いではありませんか？私の名前は雪香っていうんですよ」
　彼女は、雪香と名乗ると、俺が人違いをしたのを不機嫌に思うことなく、ニッコリと微笑みを向けてくれた。
「セツカ………？」
　言われてみれば、ウララと彼女では、持っている雰囲気のようなモノが違う。
　それに、よく考えなくても、こんな場所に、ウララがいる筈がなかった。
「お母さ～ん!!」
　その時、遠くの方で、子供の声がした。
　振り返ってみると、先ほどまで彼女が編み物をしていた桜の木の下で、小さな男の子が、こちらに向かって、手を振っている。
「は～い！今戻りますからねぇ！」
　彼女も、元気に返事を返すと、桜の下にいる男の子に向かって、手を振り返す。
「お子さん…ですか？」
　俺が、彼女にそう質問すると、彼女は幸せそうな笑みで「はい」と答えた。
　俺と彼女は、並んで、男の子がいる桜の木の下へと歩き出した。
「私の名前…私の祖母がつけてくれたんです。もう、この世にはおりませんが、私によく似ていたと、父が言っていました。もしかして…そんなわけありませんわね。あなたみたいなお若い方が祖母と知り合いなわけ…」
　彼女は、独り言のようにそう言うと、少し首を振りながら、小さく笑っていた。
　桜の木に近づいていくと、ほのかに空気が色づいて見えた。